ケーブルとギターの相性がある
音にこだわる
エレクトリックギターそのものの音はアンプによって増幅された音として認識されます。そのため、音作りを考える場合、アンプはもちろんエフェクターなどの要素も視点として外すことはできません。
多くのプロフェッショナルなギタリストの場合、サウンドについてそれぞれの考えを持っています。緻密に積み上げていくように自分のサウンドを生み出すプレイヤーもいれば、出てきた音に対し、積極的に自らのピッキングなどで演奏技術を利用して微妙にアジャストしていくタイプまで様々です。
二つの両極端なタイプを例に挙げましたが、どちらも「音にこだわっている」という点では共通しています。
そして結局、どちらも自分の思い描く理想の音を作ろうとしています。
サウンドメイクをギターそのものという点で考えると、木材やボディの構造、ネックの接続、ピックアップなど・・さまざまな要素があります。そして、それら、それぞれの相関的な相性などもあります。こうした総合的な要素でギターが出来上がっています。こうした点においてはエレクトリックベースでも同様のことが言えるでしょう。
ギターケーブル(シールド)もサウンドの基本に影響を与える要素です。楽器そのものの持つ要素に対して、シールドは見落とされがちですが、実際に聴き比べると「実逃せない問題である」と気づくことができます。
現実的な問題として、アンプは持ち運べない環境にあるプレイヤーも少なくありません。そうなるとシールドの要素はあまり無視できない問題のはずです。
シールド選びの影響
そこでどのように選ぶのかが問題になります。
ケーブル選びのポイントは自分の好みにしっかりと合わせることが重要です。ここで難しいのは使っているギターによって、一般的にそのケーブルに対して言われている要素が引き出せなくなったり、別の表情を特徴として見せることがあるというところです。
ケーブルのもう一つの影響はプレイヤビリティに影響するということです。「初心者だから」と音質劣化の多いケーブルを使うと、本来はもっと楽に演奏できるはずの楽器が弾きにくくなるということが起こります。この原因に、知らないことで気づけないということが起こります。
当然、音の変化が楽器選び、音作り、敷いてはケーブル選びの面白さでもあります。ただし多くの演奏者はそうしたポイントを「問題にしたくない」と考えているケースも少なくないと思います。
問題は単純に「良い」「悪い」ということを語ってしまうことです。こうしたラベル付が選ぶ楽しみや、隠れた魅力をユーザーのみなさんが見落とすことにつながります。結果的に自身の可能性をそこで失うことになります。
そうした評価をせず、求めるサウンドに近いケーブルを探す助けになることをここで解説していきたいと思います。
そのため、ここではケーブル選びのガイドラインとしてそれぞれのケーブルについて比較して説明します。
それぞれのイメージと実際
ケーブル選びで話をややこしくしているのは、ブランドそれぞれのイメージです。これは実際に比較をしてみるとびっくりするくらい、一般的に言われているイメージに左右されてシールドを使っていることが実感できます。
シールドのよくある売り文句としては「クリアー」「フラット」「明るい」「太い」などです。こうしたキーワードで各メーカーはそれぞれの商品を打ち出します。しかし、実際に使ってみると「本当か?」と思い、自分の耳を疑ったりすることにも繋がります。実はこの売り方には限界があります。
シールドはギターに影響される
こうしたことの起こる問題はケーブル自体ではなく別にあったりもします。
「エレキギター」
と大きく刻んでしまうことで結果的に宣伝文句の通りにならないことがあるからです。
つまり使うギターがレスポールなのか、ストラトキャスターなのか、テレキャスターなのか、といった問題で大きく印象が変わってしまうというのです。
もちろんソリッドボディだけでなく、セミアコやフルアコ、フラットトップかアーチトップかといった問題もあります。主にはピックアップに影響されますが、全体的には総合的な問題です。
まず音作りの基本としてはミュージシャンがそれぞれ特定のギターに対して要求するサウンドがあるので、そうした要求を満たす必要があります。
ギターとシールドのキャッチコピーはは別の循環を生み出しています。適したケーブルでないために、「一般的に良い」とされるシールドを使い、「自分には違いがわからない」「どれも同じ」といった思い込みや誤解のもととなっているのです。
高品質を謳っているケーブルが必ずしも楽器演奏向きではない場合もあります。ほどよく減衰があるほうが、ピックアップで拾う場合にはプラスに働くことが多いからです。
こうしたことはマイクの種類が豊富なことを想像すれば用意にわかります。すべての帯域について減衰がなくパワフルなものは、欲しいポイントが隠れてしまい弾きにくくなることがあり、それでは意味がありません。
これはベースでも同じことがいえます。むしろベースのほうがややこしいかもしれません。弾き手によって求めるサウンドの違いが大きく異なるからです。指で弾くのかピックなのかという問題だけでなく、どんな奏法であっても、どういったサウンドを生み出そうとして演奏しているのか、その帯域やダイナミクスの幅を考えると「ベース用」と販売者が括ることの怖さは計り知れません。
実際のところ、世界中のメーカーの中から自分のギターにあったシールドを選ぶのは非常に困難な作業です。また、価格も必ずしも判断要素にならない場合があります。手の混んでいる構造や希少な素材を使えば価格は高くならざるをえません。しかし、それが求めるサウンドに近づくこととイコールではないからです。
本当のところは自分の好みのセッティングで自分のギターで鳴らしてみる以外に完全なる正解を導くのは困難といえます。
ピックアップとシールドの組み合わせ
また、それぞれの出したいサウンドなども考慮するべきなので、一つのケーブルを推奨するということは大きな可能性を潰します。おすすめがあったとして、ある人にとっては至高でも、ある人には最低ということが起こります。
これは残念ながら本当です。「ビジネスは難しい(笑)」と言わざるをえません。
また、特定のスタイルにとっては向いていないといった音楽による相性問題も起こります。
コードを中心にストロークで演奏する人と、単音を絡めながらリフをメインにする人、カッティングを中心にしたスタイルの人では求めるサウンドが違います。
ただ、ある程度、機材も好みに寄せておくことが重要です。それによってベストなケーブルの選択は難しくてもベターな選択は間違い無く可能です。
ただし、最低限の品質は担保しておきたいところです。たとえば音が平坦になりダイナミクスを表現できないケーブルは演奏性を著しく悪くします。当然、ノイズが多いようなもの、合わない減衰についても同様です。
そうしたシールドを選択しないことは我々のようなカスタマイズを請け負うサービスを提供する企業にも責任の一旦があります。また、断線しやすいといった問題はその技術的な問題とプラグなどのトータルな選択の問題でもあります。
SSHではこのような問題を引き起こすケーブルやプラグはラインナップには加えず、お勧めしません。
さて、話を本題に戻します。
シングルコイルからハムバッキングか
まず選択のポイントとしてギター側で見る部分はピックアップです。使っているギターが主にシングルコイルかハムバッキングかで大きく変わってきます。
ピックアップではバッテリーで駆動するアクティヴピックアップという点ももちろん考慮してください。これでももちろん選択肢は変わります。
「ケーブルに悩みたくないならアクティヴ」という意見も見かけます。ある程度理解できますが、これは完全には承認はしかねます。やはりアクティヴピックアップでもケーブルの影響はあります。実際にはアクティヴの場合、ケーブル選択ではハムバッキングでの選択に近いと考えてもいいでしょう。
ケーブルの傾向
構造が変わればケーブルに同じ性格のものはありませんが、いくつか傾向があります。大きくは主に2系統です。そしてその間をとった3系統です。
- パワー系
- レスポンス重視系
- バランス系
新しいケーブルが、今まで使っていたこのどれかと違うタイプのものに当たると、ケーブルの変更によって驚くほど変わる印象を持ちます。
パワー系という言い方をしましたが、これは帯域それぞれの減衰が少ないタイプです。比較的音量が出やすい傾向にあるため、ここでは便宜的にパワー系と称することにしました。
多くの2芯ケーブルを2芯ともプラスに配線するとその傾向が強くでます。また1芯でもMogami3368や、SSHでも人気のKlotzAC110などはバランス系に分類されますが、パワーも十分にあります。多くは重心が低くなる傾向にあります。
音の問題は相対的なものも含んでいるため少し複雑です。ケーブルは電気の流れを増幅させることはありません。そのため、その性格を作るのは減衰です。その中で減衰の少ないケーブルはミドルや低域成分が削られないためにハイが引っ込んで聴こえます。必ずしもハイが少ないとうわけでもない可能性があるため、判断は少し難しいです。
(こうしたことは実際には周波数特性を測定しなければわかりません。こちらについては現在、資料を準備中ですので今しばらくお待ちください)
レスポンス重視系は耳に聞こえやすい高音がしっかりと届く状態になるものです。たとえばMogami2524やBelden9778などがこの傾向にあります。
これらのケーブルを利用するとプレイヤーによっては「ピッキングした瞬間から音が耳に届く」という人さえいます。
これはシングルコイルのほうがメリットを享受しやすい傾向にあります。その分、腰高になる傾向があることもポイントといえます。
以下の表を見てください。
これは主にシングルコイルでのケースとして横軸にレスポンス、縦軸に音質の特性を示しています。
高いほどドライな印象を受け、低いほど、柔らかく柔和なニュアンスがあります。
レスポンスのよいケーブルはハムやアクティヴの場合だと線の細さとして現れる場合があり、物足りない印象を受ける人も多くなります。
インピーダンスとサウンド
アンプにローインピーダンスのジャックがついている場合、ローで入力することで、ケーブルの質感がすっかり変わることもあります。この場合、ハイで受けた時に帯域の広い範囲をカヴァーできるケーブルのほうが扱いやすいといったケースもあります。
その場合はたとえばMogami 2534が力を発揮します。Mogami 2534の評価が分かれるのはこうした使用機材などの違いにあると思われます。「もっさりしてるなあ」とシングルコイルのギターでは思うシールドがハムバッキングのギターに変えるとガラッと印象が変わることがあります。レスポールでMogami2534を試した時の銃撃感はたまらないものがあります。
こうしたケーブルの特性とギターとの相性によるものが少なくありません。
ケーブルは長ければ長いほど抵抗値が大きくなるため、音質も減衰の影響があらわれやすい高域が足りなくなってきます。その一方で静電容量の数値が低いケーブルはそうした影響を受けにくくなります。とはいえ10m以内であればそれほど気にするものでもないともいえます。
選択の際にはぜひ参考にしてください。
材質と長さ
ケーブルの性格を決める多くの要素は素材の材質と太さ、形状です。
たとえば日本では定番とされ人気のCanareのGS6はシールドが編み込まれています。他にも弊社での取り扱いはありませんがEX-Proも編み込みされたシールド線を採用しています。同じ国内メーカーでもモガミであれば横巻きのものが多く、これも質感に影響しています。また絶縁体などの素材と厚さ、そして芯線などの太さなど、その設計のすべてが変化する要素です。
ノイズ対策としては編み込みよりも横巻きのほうがよいという意見が多くあります。一方で編み込みの場合のケーブルとしての耐久性の向上は思っている以上に強力です。
電気的な要素には通電と磁界の問題があるので、各メーカーがその辺りはいろいろ考えて製造しています。それぞれこだわって開発しているので、実は場面にあわせて使えばどれもすばらしいものです。また、そうした研究は世界的に行われ、日本のメーカーもトップレベルの製品を作るメーカーが少なくありません。
この材質や設計が傾向を作ります。音は好みに合うか合わないかが全てなので優劣を競うことは困難ですので、実際にはどのメーカーが優れているかということは難しい問題です。
一方で長さは抵抗値が大きくなるので、長いほど鮮やかさはなくなることになります。
たとえばスコット・ヘンダーソンはメインケーブルが1.5mほどしかありません。3m、5mと長くしていくことで音色が変わることを彼は徹底的に避けているのです。長くなると抜けが悪くなるのは構造的にやむを得ないものがあります。
それでも、こうした問題は種類によって差があります。長くなっても劣化が少ない種類のシールドもあるからです。静電容量の低い数値を示しているケーブルにはその傾向が強いです。
押し並べてこの手のケーブルは中高域の押し出しが強いので、レスポンスを多少犠牲にしている感じはあります。
その点、KlotzAC110やMogami3368は反応もよく、意外にギターを選ばない絶妙な設計となっています。Oyaide Force 77はその点、シングルコイルのギターではもっさり感があります。これをハムバッキングのギターに変えると途端に生き生きするということが起こります。これは人気のBelden 8412なども近い傾向があります。
また、メッキや内部の構造物なども影響します。たとえばベルデン社のものはスズでメッキされているものが多く、これがドライな質感につながっていると考えられます。
プラグやハンダの要素
音の傾向はプラグやハンダでもアジャストは可能です。音色へケーブルそのものほど支配力はありませんが、要素を大きく変えることは可能です。密度感、ヴォリューム感やダイナミクスには大きく影響してきます。
そのため、プラグについては今後も品質に問題がなければ弊社では扱いを増やしていく予定です。ここでの基準は実際に演奏に使いやすいかを考慮しています。あまり取り回しの良くないものや壊れやすいものについては候補にしていません。(要望時のみ対応します)
またどういったシチュエーションで使うのかを考慮し長さだけでなく、材質やストレートなのかL型なのかといった部分を選ぶと良いでしょう。ライブなのかレコーディングなのか、それとも主に自宅で使うのかといったことで鳴らす音量やサウンドも変わる場合があります。
私どもとの相談の中でプロのギタリストのほぼ全員が「実際にそれぞれの環境でケーブルを試したい」と発言します。それはそこで変化があることを彼らがよく知っているからです。
ハンダについても音色変化の要素となりますが、まだまだ検討の余地ありとして研究中です。今後の動きに期待してください。
シールド選びの今後
シールド自体は消耗品とする向きもあります。しかし、もしかしたら修理して利用するという流れになるかもしれません。資源は有限ですのでそのあたりもしっかりと考慮しつつ、みなさんに楽しんでいただけるようにしていきたいところです。
最近ではワイヤレスのシステムも充実してきました。十分に使えるものも登場しています。しかし、レスポンスの良さとケーブルを選択することで音が変わるという体験をしてしまうと、その魅力の面白さに可能性を感じずにはいられません。いろんなケーブルをシチュエーションにあわせて交換してみると新たな世界が広がることでしょう。